【†高橋嘉之逝去†】高橋嘉之★63【SMDサンタ†〒175-0082 東京都板橋区高島平3-11-5-802†HROサンタ】 (1001)

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544 大晦日文学スペシャル for CEO(52) (文豪SMD) 2018/12/31(月) 13:22:32.04 ID:bMclKlck0

 
祐介が戻ってきて2週間後、長年住んでいた団地を手放すために荷物を整理していた時のことです。
なにもかもをそのままにして出て行くわけにはいきませんので最低限の荷づくりと家財の仕分けをしていました。
昭和に建てられた押入付きの団地だったため荷物が多く、そのすべてを私たち二人で仕分けしていたのです。
不徳に落ちた私にとってこの名誉ある家系に尽くす最後の務めという気持ちでした。


日が落ちてきて夕食にしようと押入で荷物を整理している祐介のもとに訪れると
彼は何かを覗き込んだまま固まっていました。
「祐介、なにをしているの。お昼にしましょう」
「あ、母上・・・すみません。これを見つけてつい手が止まってしまいました」

近づくと祐介の前には古いアルバムが開かれていました。それも私が結婚する前、実家から持ってきたものです。
幼少期から結婚するまでの写真がいくつか貼られており私もなつかしくなって隣に座って食い入るように見てしまいました。

「なつかしいわね、これは私が高島二中の時の写真だわ」

ちょうど開かれていたページは私が高島二中に入学した時に父母とともに撮った写真でした。
まだ13歳でその頃、採用されたばかりの制服、セーラー服を着ていました。

「とても美しいです。若いころの母上も素敵です。つい見入ってしまいました」

少し照れてしまいました。私は決して美人の部類ではありませんでした。
写真に写っている姿も口元を引き締めて硬い表情をしています。

「ふふ、やめてちょうだい。でも祐介にそう言われるとうれしいわ。そうだ、まだその制服残ってるはずよ」

嫁ぐ際に私の私物はすべてこの団地に持ってきていたのです。
記憶を辿りながら押入の奥を漁ると制服が出てきました。
白地の半袖、赤いスカーフ、紺のスカート、当時最先端として話題になったセーラー服が数十年ぶりに現れました。

「これが母上の着ていたセーラー服ですか。写真の黒い冬服もお似合いですがこちらもさぞすばらしかったことでしょう」

545 大晦日文学スペシャル for CEO(52) (文豪SMD) 2018/12/31(月) 13:27:03.18 ID:bMclKlck0

 
息子の前で広げて見せたセーラー服、思春期の記憶が蘇ってきます。
日々の勉学、放課後の友人たちとの語らい、なにもかもが懐かしいです。

「一度でいいからこれを着たところを見たかった。母上、どうかこれを今から着てもらえませんか」
「いやよ、こんな年でこんなもの着れないわ」
「お願いです。妻である母上のすべてを知っておきたいのです」

そう言われて祐介に土下座されては断れません。
それにせっかく出した制服への懐かしさもありました。その制服を持って和室へと戻りました。

「お似合いです、母上」

制服に着替えて祐介の前へと出ていくと目を丸くして私を見つめていました。
当時と背丈や体形がさほど変わっていないのですんなりと着ることができました。
髪型も当時と同じように三つ編みにしてみました。
いくら素敵な制服でも52歳が着てはさすがに変としか言いようがありません。

「そんなわけないでしょう、もうこれで満足したかしら」
「いえ、本当にお似合いです。ああ、私も母上と一緒に学生でいたかった」

もし祐介が同世代の学生でいてくれたとしても同じことを言ってくれたのでしょうか。
思春期の淡い恋を共に楽しんだのでしょうか。とても興味が湧いてきてしまいました。

「今からでも一緒に学生気分を味わいましょう」
「はい!私もそうしたいと思っていました。共に学生時代に戻りましょう」

546 大晦日文学スペシャル for CEO(52) (文豪SMD) 2018/12/31(月) 13:32:39.12 ID:bMclKlck0

 
開襟シャツの学生服に着替えた息子は私を外へと連れ出しました。

「こんな恰好で外に出るなんて、見られたらどうするの」
「もう日が暮れて顔はわかりません。それにこの土地をもうじき離れるんです。世間にどう思われようがいいじゃありませんか」

互いに制服に身を包んで鞄をもって夜道を歩いていきます。
向かった先は近所の学校、明りが消えてだれもいないようなので二人で中へと入りました。
わずかな月明かりを頼りに教室へと入っていきます。

「学校なんて久しぶりだわ。私の学校もこんな感じだったわ」
「ええ、母上とこうして学生気分を味わえて最高です。母上もどうぞ学生になりきってください」

「ふふ、高橋祐介君。もう下校時間よ。早く帰らないと明日言いつけるわよ」
「幸子さんこそこんな時間まで居残ってるじゃないか」

私たちはつい笑ってしまいました。再びこうして学生ごっこを興じることになり、
それも息子と同級生という遊びをはじめたのです。
普段は真面目でお互いが恋しているのは人には秘密という設定で楽しみました。

「幸子さん・・・授業中もずっと幸子さんのことばかり考えてた」
「祐介君、私もよ」

教室で手をつないでいた私たちは徐々にそのごっこ遊びにのめり込んでいき、初恋の恋人たちのような気分でした。
祐介は私を引き寄せると強く抱きしめました。胸の鼓動が高鳴ってしまいます。

「卒業したら俺と一緒になってくれ」
「だめよ、お父様が許してくれないわ」
「構うものか、俺は・・・幸子さんが好きなんだ。幸子、俺についてきてくれ」

演技とは思えない真剣な告白、本当に胸をうたれてしまいました。
かつて高島二中時代に想っていた初恋の男子学生、今では毎日臭いスウェットスーツで仕事もせず居座るその人のことが頭をよぎりました。
その人とこうやって向かい合えたらどんなに素敵だったことか、その想いが私の中で再構築されていきました。
初恋の相手(52)が息子、祐介に上書きされていきました。

「初めてお見かけしたときからずっと好きでした。大好きです祐介」