2 野に咲く名無し@転載禁止 2025/08/23 (土) 06:20:11.572 ID:7VU697J4a主
ぷゆゆ観察日記
4月1日(発見の日)
今日はいつも通りの帰り道だった。公園のベンチの下、ふと視線を落とすと、何か黄色いものが転がっているのが見えた。よく見るとそれは、直径30センチほどの球体。ほんのり光沢のあるふわふわした質感で、まるでスフレケーキかバルーンのようだった。
だが何より目を引いたのは、その顔だった。くっきりした大きな黒目に、内向きの困り眉。そして、小さな「へ」の字型の口。まるで今にも泣き出しそうな、悲しげな表情を浮かべていた。
そいつは「ぷー」と小さく鳴いた。どこから発してるのか不思議なくらい自然に響く声だった。思わず俺は「ぷゆゆ」と名付けた。「ぷー」と鳴くし、ふわふわしてて…なんか「ぷゆゆ」って感じだったから。
後から調べてみたら、どうやらこのぷゆゆ、路地裏や川沿いなんかでたまに見つかるらしい。だけどその生存率は著しく低い。野良猫に襲われ、ぼろぼろになった死骸が電柱の下に転がっていたり、車に轢かれてグチャグチャになっているのを見たことがある。公園の階段から転げ落ちて「ぷー…」と最期の声を残し、動かなくなる個体もいた。餌が手に入らず、痩せ細って死んでいくものも少なくない。
そう、ぷゆゆはこの世界の生態ピラミッドで言えば、底辺中の底辺だ。
そんなぷゆゆが、俺の足元で「ぷーぷー」と鳴きながら、ぴょん、ぴょんと飛び跳ねてついてくる。まるで、「ついて行っても…いい?」とでも言いたげに。その健気さが妙に胸に刺さって、無視して立ち去ることができなかった。
仕方なく、家に連れて帰った。玄関に置いたら、部屋の隅にちょんちょん跳ねて移動し、そのままうずくまって眠ってしまった。「…こいつ、一体何者なんだ?」
3 野に咲く名無し@転載禁止 2025/08/23 (土) 06:21:25.518 ID:7VU697J4a主
4月2日(観察初日)
目が覚めると、枕元にいた。大きな黒目がじっとこっちを見ている。眉はさらに下がり、昨日よりも切ない顔になっていた。まるで「どこにも行かないで」とでも言ってるようだった。
「…おはよう?」
言葉に反応するように、「ぷー」と短く鳴いた。
どう鳴いているのかは依然として不明。口は動かない。鼓膜にも何か圧迫感があるような、不思議な鳴き声だ。
冷蔵庫にキャベツの芯があったので試しに与えてみると、「ぷーっ!」と一鳴きして跳ねて近づき、ちょんちょんと少しずつつついて食べ始めた。あんなに困り顔のままなのに、なんとなく嬉しそうなのが伝わる。
日中は部屋の中をあちこちぴょんぴょん跳ね回っていたが、壁にぶつかると「ぷー…」と小さく鳴いて動かなくなる。その度に俺が声をかけると、また動き出す。間抜けだけど、なんだか憎めない。
夕方、ソファの下に挟まって「ぷーぷー」と助けを求めていた。引っ張り出すと、ぷゆゆは俺の膝にぴょこんと飛び乗り、顔を見上げてきた。その瞳に映るのは、俺の顔と、ほんの少しの希望のようなものだった。
…俺、ほんとに変な方向に目覚めてないか?
4 野に咲く名無し@転載禁止 2025/08/23 (土) 06:22:27.961 ID:7VU697J4a主
4月3日(生態の謎)
今日は、ぷゆゆの謎を少し探ってみた。
まず水。霧吹きで軽く吹きかけると、「ぷーっ!」と驚いて跳ねたが、嫌がりながらも濡れたまま移動し続けた。風呂場にそっと置いて様子を見ていたら、タオルに自ら潜り込んで丸まり、眠っていた。
寒さに弱いのか? それとも、柔らかいものが好きなのか?
餌に関しては、キャベツ、パンくず、米粒は喜んで食べる。でも、魚や肉は「ぷー…」と哀しげに鳴いて首を振った。申し訳なさそうに眉を下げ、口をすぼめて、俺を見上げる。まるで「気持ちは嬉しいけど…ごめんね」と言っているみたいで、逆にこっちが悪いことをした気分になる。
おそらく、完全な草食性なのだろう。野生では何を食べて生き延びてるのか、考えると謎しかない。夜は俺のベッドの上で「ぷーぷー」鳴きながら丸まり、いつの間にか寝息のような音を立てて眠っていた。
追い出すのも忍びなくて、そのまま一緒に寝ることにした。
5 野に咲く名無し@転載禁止 2025/08/23 (土) 06:22:54.716 ID:7VU697J4a主
4月4日(絆の芽)
今朝、目が覚めたら、ぷゆゆが足元にくっついていた。「ぷーっ!」と跳ねながら、俺の足にまとわりつくように動く。仕事から帰宅した時も、玄関で「ぷーぷー」と待ち構えていた。跳ねながら近づいてきて、困り顔で見上げてくる。
…どうして、こんなにも無防備なんだろう。
家の中では元気に跳ね回っているけど、外では秒で死ぬ生き物だ。それでも、俺に懐いてついてきて、寄り添ってくる。
…もしかして、俺がこいつを守ってやらなきゃいけないのかもしれない。
「いつまでいるつもりなんだよ」と思いつつも、明日もキャベツを用意しておこうと思った。
6 野に咲く名無し@転載禁止 2025/08/23 (土) 06:23:19.631 ID:7VU697J4a主
4月5日(初めての危機)
事件が起きたのは朝。いつものように換気のために窓を開けていた時、ぷゆゆが突然「ぷーっ!」と高く跳ねて、そのまま窓の外へ飛び出してしまった。
「おいっ!」
慌ててベランダに出ると、ぷゆゆは隣の家の屋根の上にいた。全身を小刻みに震わせ、「ぷーぷー」と鳴きながら、こっちを見ている。眉は下がりきり、泣きそうな目で助けを求めていた。
脚立を持ち出して、慎重に屋根まで登り、ようやく救出。俺の腕の中で、ぷゆゆは「ぷー…」と小さく鳴き、ぐったりと丸まった。恐怖のあまりか、いつものふわふわした弾力が、少しだけ弱まっていたような気がした。
家に戻ってキャベツをあげると、ゆっくりと、静かに食べ始めた。
…俺、もう完全に情が移ってる。
こいつがいなくなるなんて、今は考えられない。
7 野に咲く名無し@転載禁止 2025/08/23 (土) 06:25:35.438 ID:7VU697J4a主
4月6日(最悪の朝)
昨夜から様子がおかしかった。布団に入って寝ようとした矢先、ぷゆゆが部屋中をぴょんぴょん飛び跳ねながら「ちっこ!ぷー!ちっこ!!」と叫び回っていた。困り眉をさらに下げ、目を潤ませながら俺の足元にまとわりついてくる。何度も俺の視界に入り込んでは、「ぷー…ちっこ…」と訴えるような声。
正直、うるさい。眠い。意味がわからん。俺は枕を抱えながら「勝手にしろ」と布団をかぶって寝た。
そして今朝──
目覚めと同時に異変に気づいた。鼻を刺す、あの独特なアンモニア臭。まさかと思って目を開けた瞬間、信じがたい光景が視界に飛び込んできた。
ベッドの上で、ぷゆゆが困り眉をさらに歪ませながら「ぷー!ちっこ!」と叫びつつ、顔の目の前で盛大に放尿していたのだ。顔面に生暖かい液体が滴ってくる感覚──正真正銘、直撃だった。
「殺すぞてめえ!!」
ブチ切れた俺は、反射的に布団を跳ね飛ばし、立ち上がるや否や、ぷゆゆのふわふわな腹に怒りのローブローを5連打。ぷゆゆは「いたいぷー!!いたいぷ!!」と絶叫しながら、情けない表情で跳ねながら逃げるが、容赦はしなかった。
ソファの下に逃げ込むのを無理やり引っ張り出し、勢いをつけて壁際にサッカーボールキック。空中で1回転したあと、「ぷーっ!!」という断末魔と共に壁に激突、ぶちまけた吐瀉物が床に広がる。壁には黄色い飛沫とスライムのように張りついたぷゆゆが、ゆっくりずり落ちてきた。
…でも死ななかった。
昨日、ネットで注文した「絶命防止剤」を試しに塗っておいたのを思い出した。ぷゆゆ愛好家の間で密かに使われているという、非認可の延命ジェル。どんな暴力にもある程度耐えられるという噂は本当だった。
とはいえ、許す気にはなれなかった。階段の手すりに太いビニール紐でガチガチに縛りつけて、そのまま放置。ぷゆゆは「ぷー…ぷー…」と弱々しく鳴きながら、涙を浮かべて糞尿を垂れ流していた。困り眉はさらに傾き、もはや常軌を逸した表情だったが、今の俺にとっては、同情よりクリーニング代の方が重要だった。
8 野に咲く名無し@転載禁止 2025/08/23 (土) 06:26:14.679 ID:7VU697J4a主
4月7日(回復と懺悔)
仕事から帰って玄関を開けた瞬間、階段から漂う異様な臭い。慌てて見に行くと──
ぷゆゆは色素が抜けたように真っ白になり、体がぴくぴくと痙攣していた。目はうつろで、今にも死にそうな顔をしている。いや、正確には"死にかけていた"。
「…やべえ」
慌てて縄をほどき、ぷゆゆを抱きかかえて台所へ直行。冷蔵庫から、ぷゆゆの大好物「じゃがいも(北海道産男爵)」を取り出し、目の前に置いた。
最初は弱々しく、「ぷー…」と一鳴きしただけだったが──
次の瞬間、ぷゆゆの口がじゃがいもに触れた瞬間、体がふわっと光を帯び、みるみるうちに色素が戻っていった。黄色が蘇り、潰れていた目が元通りのまん丸に。ひび割れていた皮膚も瞬時に回復し、ぷゆゆは「ぷー!ぷー!」と元気に跳ね始めた。
じゃがいも=万能治癒アイテム。まさかここまでとは。
ぷゆゆは俺の膝に飛び乗り、困り眉を極限まで下げた状態で、「ごめんなさいぷー…もうしないぷー…」と小声で鳴いた。大きな黒目でじっと見つめられると、さすがに胸の奥がチクッとした。
とはいえ、念のためその夜も階段に縛り付けた。今回はゆるめに。反省の時間は、少し長めにとるべきだ。
9 野に咲く名無し@転載禁止 2025/08/23 (土) 06:26:50.309 ID:7VU697J4a主
4月8日(ルールと信頼)
朝。ぷゆゆを縄から解放すると、いつもの黄色い体で、ぴょんぴょんと元気に跳ね回った。「ぷー!ぷー!」とご機嫌な様子ではあるが、昨日までとは明らかに様子が違う。
距離感を保っている。俺の顔をじっと見つめる時間が、長い。そしてなにより、トイレを探すように部屋の隅をきょろきょろと見回している。…もしかして、学習したのか?
俺は小さなトレイを用意し、そこに新聞紙を敷いて「ぷゆゆ専用トイレ」と名札を書いて設置した。
「ちっこはここ。ここ以外でしたらまた階段な?」
ぷゆゆは困り眉をしゅんとさせ、「ぷー…」と返事のように鳴いた。
果たして、本当に反省しているのか。それとも単に、じゃがいもが欲しいだけなのか。
…まだ油断はできない。
10 野に咲く名無し@転載禁止 2025/08/23 (土) 06:36:26.266 ID:7VU697J4a主
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11 野に咲く名無し@転載禁止 2025/08/23 (土) 06:36:48.747 ID:7VU697J4a主
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